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2009年4月19日 (日曜日)

電子ブックは紙媒体を乗り越えることができるか?

BBCの記事によれば,近い将来,電子ブックが紙媒体を乗り越える日が来るかもしれないとのことだ。

 Are e-books the new newspapers?
 BBC: 17 April 2009
 http://news.bbc.co.uk/2/hi/programmes/click_online/8003724.stm

この問題は,2つに分けて考えたほうがよさそうだ。

1つ目は,機能としての優劣だ。電子ブックは,明らかに検索やデータの再利用のために適している。紙媒体では無理なことばかり。しかし,電気がないと使えなくなってしまうという重大な欠点がある。紙媒体だと停電でも本が読めるのと同じように電気に依存していない。

2つ目は,経済的見地からの分析だ。電子ブックのデータは印刷・製本等の必要がない分だけ資源の消費が少ない。しかし,データの再利用可能であるがゆえに,コンテンツの違法複製の横行をとめることができず,少なくとも利用者の多くが無料でデータを使うことになれてしまうような環境を醸成してしまうという問題がある。これに対し,紙媒体では,印刷・製本等のコストだけではなく出版・流通のための(人件費を含めた)様々なコストが発生し,資源の消費が必要となる。けれども,少なくとも媒体を購入しないと内容を得ることができないので,コンテンツに対しては適正な対価を支払うという文化を育みやすい。

このように考えてくると,総合的には,電子ブックは機能面及び利便性の面で紙媒体よりも優位であると言えるが,長い目で観ればコンテンツの製作者を食わせていくことができなくなってしまい,結局,コンテンツの供給不足または消滅という事態を自ら招いてしまう可能性があるように思う。そして,コンテンツを抜きにしたマシンの優劣を考えても全く意味がないことは誰にでも判ることなので,長期的展望からすれば,どのような政策判断がベターなのかは自ずと明らかだろうと思う。

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コメント

キメイラさん こんにちは。

古い媒体に記録されたデータをカレントな媒体上に復元・記録してくれる仕事はありがたいですね。

大事な仕事なので,少しくらい高い料金をとっても当然のことだろうと思います。

日本人の多くは,「物体」を製造する仕事でないと価値を認めたがらない性格傾向をしっかりと植えつけられているので(←重化学工業推進の時代において政府主導の下に徹底して行われた製造業を主体とする大企業を崇拝させるための学校教育及びマスコミによる扇動の賜物だと思います。),記録の復元という「サービス」の提供に対して価値を見出したがらないかもしれません。しかし,「サービスというものに対して価値を認めることができない」ということは,脳機能の一部に重大な欠損があることを推定させるものだと信じております。

投稿: 夏井高人 | 2009年4月22日 (水曜日) 08時58分

夏井先生,再応答ありがとうございます。m(_ _)m
>常に最新の媒体にデータを移し変え続けなければならないということになってしまいそうなんですが,まるで「賽の河原」のような世界じゃないかと思ってしまいます。(笑)
 実は,私の友人がレガシーというかエイシャントメディアの変換を副業で始めましたが,今はそっちが本業で儲けてます。
 8inchフロッピー片面単密度から真っ二つに割れたアナログSP・EPレコードさらには変色劣化したダブルトラック8ミリフィルムまで今のデジタルメディアに復元してくれます(お代は高いですが)。

投稿: キメイラ | 2009年4月21日 (火曜日) 07時51分

キメイラさん こんにちは。

媒体の種類によって物理的な脆弱性が異なるので,その特性を十分に理解した上で適切にバックアップをとる必要があるのでしょうね。

その場合でも問題がぜんぜんないというわけではないです。例えば,せっかくバックアップデータが存在していても,その媒体を読み取るためのデバイスが非常に短期間に世の中から消えてしまうということがしばしばあります。現時点で,5インチのFDドライブを探し出すことはほとんど無理かもしれないですよね。カセットテープもそうです。記録それ自体は存続しているはずなのに,それを読み取れないのであれば,無意味になってしまいます。

ということは,常に最新の媒体にデータを移し変え続けなければならないということになってしまいそうなんですが,まるで「賽の河原」のような世界じゃないかと思ってしまいます。(笑)

投稿: 夏井高人 | 2009年4月20日 (月曜日) 23時05分

 夏井先生,いつもご応答ありがとうございます。
 私はパソコンを使いだした二十数年前からデータ領域だけは外部メディアへ圧縮バックアップを毎日行っています。御賢察のとおり,その前年にデータが全部御釈迦となるシークエラーがあって痛い目に遭ったからです。(^^ゞポリポリ
 今はバックアップも百数十ギガとなり,バックアップ中のデータ損傷に備えて,自宅と職場の2か所にバックアップを備えています。つまり,どっちかが火事や地震で焼損することに備えているからです。考え過ぎと言われようとも。
 ちなみに,水没やガリる程度なら,専門の復旧業者に頼めば99%は復旧は可能ですが,メディアの高熱変形はお手上げです。ヒステリシアス効果の磁気差分で読み取る裏ワザは高熱変形でほぼ絶望的だからです。

投稿: キメイラ | 2009年4月20日 (月曜日) 07時53分

キメイラさん こんにちは。

図書館の書籍を消滅させるためには,放火して全部燃やしてしまうしかないかもしれませんが,デジタルのデータでは,ディスク1個を破損させるだけで図書館に匹敵する分量のデータを瞬時に消滅させてしまうことができるんですよね。

電子ブック等の装置はもっていないので経験ないですが,PCのハードディスクが突如クラッシュして泣きを見たことは何回かあります。そんな経験をしないと,バックアップをきちんととる習慣が身につくことはなさそうです。(笑)

投稿: 夏井高人 | 2009年4月19日 (日曜日) 22時11分

 実際にあった最大の被害は,試験用デジタルブックHD内蔵マシンをホームから線路上に落下させて,数十ギガのデータが一遍で消失したものです。数十ギガのモメリカード内蔵マシンをお尻のポケットに入れたまま座り真っ二つで異常電流データ消失という例もありました。
 泡沫規模の図書館が焼失したくらいのデータ損害に等しいというレポートでした。もっともバックアップをとっていれば問題ないですが,データのバックアップが市井の民に普及しているかというと,そうでもないので。

投稿: キメイラ | 2009年4月19日 (日曜日) 09時17分

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