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2009年3月 8日 (日曜日)

センシングウェブ

人工知能学会誌24巻2号(2009年3月)に「センシングウェブ」という特集記事が掲載されていた。その中には,ビデオ映像データや音声データなどに含まれるプライバシー情報の処理に関連する論文が複数含まれている。

しかし,何度読み返してみても頭にすっきりと入らない。それどころか,ひどい違和感がある。技術的事項に関しては容易に理解することができるのだが,法的事項については「何を書いているのか判らない」といった状態から抜け出すことができないのだ。

もしかすると,論者が「プライバシー」や「個人情報」といった法的概念をきちんと理解し,定義できていないからかもしれないと疑いたくなった。

実際問題として,法科大学院で最も優秀な学生の中でもプライバシーや個人情報の概念を正しく定義できる者は非常に少ない。勉強量と思索の深さと実務経験が圧倒的に不足しているし,時として「何も判っていない法学教授」の書いた書籍等を教科書として勉強せざるを得ない場合があるので,それもやむを得ないことではあるが・・・(←ちなみに,私自身の経験からしても,これまでの人生の中で,完全に満足すべきレベルに達していると納得できるような憲法学の教科書に出遭ったことは,日本語のものと外国語のものを含め,ただの一度もない。)

さて,以下はすべて一般論であり,特定の論文を批判する趣旨の記述ではないのだが,今後,この種の科学技術研究を進める場合には,プライバシー保護や個人情報保護に関する法学専門家との共同研究を必須とすべきではないだろうか?

また,真に謙虚な研究者であれば,法的事項について自分が専門領域としていない場合には,法的事項の認識・理解に誤りがないかどうかについて,法学の専門家からアドバイスを受けたり論文草稿の校閲を願ったりするのが研究者として当たり前の態度だと思われる。専門家でもないのに「何でも判っている」と思い込むのは各人の自由ではあるけれども,ときとして傲慢と無知をさらけ出すだけのことがある。

もしそうでければ,理系の研究者が自分勝手に想像した法的概念に基づいて,とんでもないシステムやポリシーなどを構築してしまっておりながら,本人の自己認識としてはプライバシーや個人情報を守るための手法を確立したと自分勝手に思い込み,自己満足してしまう危険性が非常に高い。そのような技術は,企業によって製品化されることがある。そして,プライバシーや個人情報を何ら守る機能がないのに,そのようなものだと信じて販売してしまう企業は軽率の謗りを免れないというべきだろう。

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コメント

キメイラさん こんにちは。

私の専門領域である法学の分野でもそのような例がいくらでもあります。定年までバレないで天寿を全うされた方もありますし,途中で問題となり教授会で叱責された上で失職してしまった方もあります。

どうして自分で書こうとしないのでしょうかね?

お金はあまりないけど,自由に考え,自由に書けるというのが教授の最大の特権のようなものなはずなんですけど・・・

ちなみに,米国でも同じような例がいくらでもあるようです。あまり形式的に「業績」を求めすぎるとこういうことになりがちではないかと思います。数ある教授の中には大量生産タイプの人もあれば,時間をかけて熟慮し大作を仕上げる人もいるわけで,学問というものは会計年度単位で動いているわけではないですし,動かしようもありません。

投稿: 夏井高人 | 2009年3月 9日 (月曜日) 20時04分

>大学院生に適当に原稿を書かせておき,まともに校閲をしないまま自分の名前で論文を発表してしまう

 それが某教授の一番の名著となった例を知っています。当の教授がエッセイでほのめかしていましたがw
 血液鑑定を助手に丸投げしていた著名教授は,教授死後の再審公判で丸投げがバレて顰蹙を買ったのも記憶に新しいかと思います。m(_ _)m

投稿: キメイラ | 2009年3月 9日 (月曜日) 16時55分

キメイラさん こんにちは。

弁護士の場合,クライアントに対し,「知らないことは知らない」,「できないことはできない」と明確に説明できないと,弁護士倫理違反になってしまうことがあります。やれない仕事を「やれる」と言って引き受けることは,それ自体として,どんな仕事についても職業倫理違反になるでしょうし,悪質な場合には詐欺行為を構成することもあるでしょう。だから,別に勇気も何も必要なくて,「できないことはできない」,「知らないことは知らない」と淡々と述べるだけのことだと理解しています。

しかし,営業的な観点からだけで言うと,顧客のほうでは「万能そうな人」のほうを「偉い」とか「凄い」とか「尊敬できる」とか「信頼できる」とか思い込みがちですね。これは顧客の側での無知,知識や経験の欠如,洞察力や判断力の不足などに起因することが多いものだと理解していますが,世の中その程度のものなので,結果的に,詐欺的な営業をする者のほうが顧客(お金)を集めるという結果になってしまいがちです。困ったものです。

それはさておき,研究者としては,研究と関連する重要事項については,きちんと理解できており,明確かつ正確に定義できるかどうかを常に自問自答するという態度は必要なんでしょうね。

ただし,大学院生に適当に原稿を書かせておき,まともに校閲をしないまま自分の名前で論文を発表してしまうような教授がいるとすれば,あとで自業自得の結果を招くことになってしまう可能性があることさえ認識できないのでしょうから,何を言っても無駄かもしれないです。(苦笑)

投稿: 夏井高人 | 2009年3月 9日 (月曜日) 07時37分

>専門家でもないのに「何でも判っている」と思い込むのは各人の自由ではあるけれども,ときとして傲慢と無知をさらけ出すだけのことがある。

 肝に命じます。m(_ _)m
 知らないことは知らない,分からないことは分からない,勉強不足は勉強不足と公言できる勇気を持ちたいと思います。IT,法律,医療,著作権,プライバシーなど,この世の中には知らないことがてんこ盛りにありますから。

投稿: キメイラ | 2009年3月 8日 (日曜日) 19時01分

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