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2009年3月12日 (木曜日)

Googleの著作権訴訟は和解に向かうというのだが

Googleは世界最大の著作権侵害者なのか?」の記事にあったクラスアクションは,結局,和解で終わることになったようだ。その影響は(少なくともクラスアクションのクラスに含まれている著作権者との関係では)日本国で出版された著作物にも及ぶことになると解釈されているため,各方面で議論を呼んでいる。

 「通知なければ掲載」国内作家に戸惑い グーグル書籍データベース化
 産経ニュース:2009.3.12
 http://sankei.jp.msn.com/economy/finance/090312/fnc0903120102000-n1.htm

もちろん,GoogleにはGoogleのポリシーがある。私企業なので,どのようなポリシーを構築しても,それは基本的には自由なことかもしれない。しかし,もし同じポリシーを日本の国立国会図書館その他の公立図書館が採用したとしたら,轟々たる非難の嵐が沸き起こることは間違いない。日本のマスコミが,他のところでは著作権擁護のために随分ときついことを主張したりしつつも,どうしてGoogleだけを許し続けているのかが理解できない。理論的には,書籍として刊行されている新聞の復刻版等もこの和解の対象に含まれる可能性が高いし,将来的には各種ビデオ映像等についてもほとんど同じようなことが起きるのに違いないのに,危機感が全くない。不思議だ。

他方,仮にGoogleのポリシーのほうが正しいと仮定した場合,今後,出版業や書籍販売業がそもそも成立しなくなってしまうことになるだろう。そして,出版というかたちで文化的産物が生産されることはなくなってしまう。その結果,皮肉なことにも,将来展望としては,データベースに収録すべき新たな作品が次第に生産されなくなってしまうということになるだろう。

加えて,Googleは私企業に過ぎないので,経営破綻や倒産は当然あり得る。もし出版社や書店などが滅び去り,Googleだけが生き残った後にGoogleが経営破綻し,データベースがどさくさにまぎれて破壊されてしまった場合,人々は書籍を手に入れる方法を全く持たない状態に陥れられてしまう。これは,多数の企業が特定のクラウドコンピューティングサービスに完全に依存して企業経営をする場合には,そのクラウドコンピューティングサービスの経営破綻によって大規模な連鎖的経営破綻(巨大な連鎖倒産)が発生し,世界恐慌に発展するおそれがあるというのと全く同じことだ。

さて,この私はどうしたら良いのだろうか?

たぶん,大学で使う教科書やシラバスを含め,可能な限り出版をしないようにすることになるだろう。所属学会等の団体が補償金を受け取り,個々の著作者には補償金を分配するのではないような組織に加盟している場合,その学会の学会誌等には一切何も書かないようにすることにしよう。

もしそうでなければ,私の講義を選択してくれた学生や顧客等に対して差別化のメリットを与えることができない(対価を支払っていない者に対し,対価を支払っている者に対するのと同じサービスを提供することは,対価を支払っている者との関係では詐欺行為の一種となる。対価を支払っている者に対しては,その対価に見合った給付を提供しなければならない。)。大学では口頭の講義を中心とし,それを学生が要約して書き取るという古風なスタイルに戻ることにしよう。外部での講演などでは,可能な限り,文字のない簡単なプレゼンテーションだけで済ませることにしよう。

かくして,文明社会は,とてつもなく貧困かつ暗黒の時代へと邁進していくことになる。ネットは文明を殺すための道具となりつつあるかもしれない。

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