Winnyにおける情報流通に関する実証的な研究の必要性
Winnyをはじめ,ファイル交換ソフトを介した情報漏えいなどの報道がずっと続いている。しかし,報道記事だけではその具体的な内容がほとんど分からない。「知ることができるのはそのようなソフトの利用者だけ」というもどかしさのようなものがある。おそらく,警察は捜査と関係のある部分に関する情報しか把握していないだろうと推測されるし,著作権団体などでも同じだろう。何ら利害関係のないところに資金を投入して研究をする意欲をもつことができるのは,「研究それ自体」を愛してやまない研究者だけだろうと思う。
というようなことを考えていたのだが,高木浩光さんが久々にWinnyに関する実証的なレポートをアップしているのを見つけた。
Winny媒介型暴露ウイルスによるファイル流出被害発生件数の推移 その2
高木浩光@自宅の日記: 2009年01月17日
http://takagi-hiromitsu.jp/diary/20090117.html
故意による放流と過失による流出、Winnyにおける拡散速度の比較
高木浩光@自宅の日記: 2009年01月11日
http://takagi-hiromitsu.jp/diary/20090111.html
おそらく,まともなISPであれば,主にWinnyなどのファイル交換ソフトが利用する部分の通信量などを常に測定し,業務遂行上の必要に応じて適宜通信料の制限などをするために役立てているのだろうと推測するので,その意味での実証的な測定データは他にも存在しているだろうと思う。また,高木さんの記事の中でも示唆されているように,自称Winnyの研究者は少なからず存在するだろうから,そのような人々も一定のデータを蓄積し続けている可能性はある。
しかし,差別的でない手法でデータを検討し,それを判りやすく説明している記事を見つけるのはそう簡単なことではない。
また,主に理系の専門家向けに書かれた科学技術論文を見せられても,それを読んで何の苦もなく直ちに理解できる裁判官や検察官はほとんどいないだろうし,まして普通の弁護士や裁判員には非常に困難というのが現実だと考えるべきだろう。
新聞などのマスコミは字数制限があるし,テレビには番組放映時間の制限があるから,そもそも媒体として最初から無理。「字数も時間も何も制限がない」という媒体であることが必須なのだが,営利企業ではそんなものはあるはずがない。
では、研究者はどうかと言うと,研究者は基本的に「研究が好き」という理由で研究をしているのであり,それを世の中に知らしめることについて意欲をもっているとは限らない。また,自分の研究結果を判りやすく解説するための表現能力が伴っている研究者が多いかというと,これまた疑問だと言わざるを得ない。
だから,「判りやすい解説」というものに対する需要が非常に高いにもかかわらず,世の中には,必要な情報がまったく存在しないか,または,読んでみても直ちに理解することは無理または非常に困難なものばかりというようなことになってしまいがちだ。
例外としては,政府系の研究機関がときどき公表するレポートがあるくらいのものではないかと思う。民間の研究機関のレポートの場合,非常にすばらしいレポートがたくさんあることは事実だけれども,中には何となく特定の製品やサービスの宣伝広告の意図が背後に隠れているのではないかと推測されるものが散見されるし,あるいは,もっと邪悪な意図がみえみえの場合もないわけではない。もちろん,意味不明または無価値なレポートの数は決して無視できるレベルではない。正直言って,資源の無駄だと思う。
このような状況にあるのにもかかわらず,高木さんの書くものの迫力は凄まじい。
というわけで,今回も脱帽だ。
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