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2008年12月 7日 (日曜日)

複合汚染

かつて有吉佐和子『複合汚染』という書籍が刊行されたとき,人々は,個々の物質としてはそれほどひどい汚染をもたらさないものであっても,それらが幾つか組み合わされたときに大変な問題を発生させてしまうかもしれないということに気付かされた。説明されれば当たり前のことなのだと思うけれども,誰かから言われるまで気付かないことが案外と多いものだが,この複合汚染もまたその一つと言えるだろう。

それから何十年もたって日本は少しは良くなったかというと,より悪くなってしまったかもしれない。というのは,現在では目に見えない有毒物質,有害電波,放射線などが社会の中にあまねく(ユビキタスに)存在しているからだ。

食品安全の関係では,原料や産地の偽装だけではなく,合成保存料や食品添加物や残留農薬等の偽装が幾度となく繰り返されてきた。おそらく,現在流通している食品の大半は,単に発覚していないというだけのことで実際には多かれ少なかれ同じような問題を抱えているのだろうと想像する。そうでなければ,スーパーマーケットの店頭に何日も商品としての食品を展示し続けることなどできるわけがない。もちろん,関連する法令に基づき,適法に添加できる保存料等の薬品は多数存在するし,それらについての安全基準が定められていることが普通だ。しかし,そうした安全基準は,その物質一種類だけに限定した安全基準なのであって,複数の食品を組み合わせて調理したり口にしたりした場合どうなるかといったタイプの問題に対応した安全基準は存在しない。原理的に存在し得ないのかもしれない。

同様に,携帯電話の電波だけでは短期的には何も人体に対する悪影響がないとされているけれども,長期的な影響調査がなされたことはない。また,電波と紫外線と放射線を長期間にわたって複合的に受けた場合の影響調査は一つもない。普通は,そのようなことなどないだろうと考えられているからだ。しかし,現実はそうではない。微量の放射線を含む物質は身の回りにいくらでもある。しかも,何らかのかたちで問題になったとしても,回収等によって問題の発生を阻止または抑制することが実際には非常に難しいということを思い知らされるような事件が発生した。

 放射性ストラップ捨てないで  文科省が回収呼び掛け
 共同通信: 2008年12月2日
 http://www.47news.jp/CN/200812/CN2008120601000497.html

 光る携帯ストラップに放射性物質 警視庁、販売の男女逮捕
 産経ニュース: 2008.7.17
 http://sankei.jp.msn.com/affairs/crime/080717/crm0807171211020-n1.htm

もし私が監督官庁(文部科学省)の担当係官だとしたら,国民の不安に対して「ストラップに含まれる放射線だけでは直接の影響はない」と答え続けることだろう。現実問題として複合的な汚染の場合にはどうなるかについての調査結果が何ひとつ存在していない現状では,そのように返答するしかないとも言い得る。

けれども,「何も言えない」ということは「何も問題はない」ということと同義語ではない。

所管官庁の壁がある限り,複合汚染に関する調査・研究は今後においても少しも進捗しないだろうと思う。しかし,現代~近未来において政府がなすべき仕事の大半はそのような仕事なのだということをきちんと自覚すべきだろうと思う。

これまで無自覚的に承継してきた行政組織の縦割りを根本から見直すような発想が必要だろうと思う。

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