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2008年12月18日 (木曜日)

株式会社形式の大学破綻

数年前まで,一部のエコノミストなどが「大学は株式会社化すべきだ!」と力説していた時期がある。現時点では,彼らはどこかに隠れてしまったか,あるいは,「そんなこと言ったことはない」ととぼけているか,どちらかになってしまっている。自己批判すべきだろう。なぜなら,大方の大学関係者が予想していたとおりの状況になってきたからだ。破綻が発生した。

 株式会社設立の大学、初の募集停止 経営難のLCA、廃校も
 産経ニュース: 2008.12.18
 http://sankei.jp.msn.com/life/education/081218/edc0812180014000-n1.htm

破綻のメカニズムは明らかだと思う。

まず,学生の立場から考えると,可能な限り安い学費で可能な限り高いメリットを得ようとする経済的合理主義ともいうべき期待が存在する。この期待が実現されていないのであれば,学生はその大学を選ばない。

次に,大学における教員の業務の面から考えると,大学教育は教科書を読めば理解できることを伝授するための単なる情報伝達機関なのではない。大学教授は研究をし,最先端の研究内容を学生に伝え,学生に考えさせることによって,他の大学の学生との差別化をはかり,学生が社会に出てからも相対的に優位な能力や経験を有する者であるように育てようとする。これが最もまともな教授の姿である。そのためには,給与の額に見合った「労働」を提供するだけでは全くもって資金不足となることは常に当然のことである。要するに,教授の熱意だけが大学における高度の教育と研究を支えているのであり,通常の労働理論や経済原理とはかけはなれた「何か」がそこには存在する。にもかかわらず,普通の資本の論理で教授の「仕事」の目方を量ろうとすれば,当然のことながら,常に,平均値以下の結果しか得られない。

評価と言う点でも世間の俗説とは違った要素がある。基本的に,教科書を事前に読んで完全に理解しておくことは学生としての当然の義務とでもいうべきことである。教授は,授業の場では,そのことを前提にして高度な教育を実施すべきである。教科書どおりに授業をすることは大学教育の本質に反する。つまり,大学における教科書とは予習のための自習用副読本のようなものに過ぎない。真に大事な授業内容は教授の頭脳の中にしかないし,そうでなければ真に価値ある授業であるとはいえない。要するに,評価のための指標を構築することが原理的にできない。したがって,特定の教授,学科または学部における教育が真に価値のある授業であるかどうかを第三者から評価することは,原理的に,全く不可能である。

そして,大学は高コストのビジネスである。それゆえ,文部科学省は,毎年,多額の補助金や研究助成金を支出してきた。これは良いことだと思う。もしそれがなくなってしまったりすると,日本の大学における教育・研究のレベルは,それだけで崩壊に近いくらい下落してしまうだろう。そのような高コスト構造を税金でもって支援するかどうかは国政上の重要な判断事項のひとつである。そして,国として,将来の国民をどのようなものにするかという非常に大事な事項と直結するものである。国における将来投資として理解しても良いし,国が大学のためのパトロンになっている社会制度だと理解しても良い。要するに,個々の大学が独立採算制を維持することは,その学校が真の意味で大学であろうとする限り,最初から理論的に破綻していると断言することが可能である。

以上の私の見解については反論もあるだろうけれども,反論したい人はすれば良い。ただし,大学における教育と研究の本質を知っている者の口から出た反論でなければ,何らの説得力も持たないことは言うまでもない。大学というものが生きるメカニズムは,通常の会社経営における経済原理や経営メカニズムとはかなり違ったものであることをきちんと認識・理解する必要があるだろう。いくら資金を投入しても,ただそれだけでは優れた研究業績が誕生するわけではなく,優れた授業が実現するわけでもなく,優れた人材が育つわけでもない。真に優れた経営者であれば,これらのことを既に完全に理解しているはずだ。

さて,大学が破綻した後にどれだけ悲惨なことやGDPを大幅に下落させるようなできことが待っているかを想像することはそれほど困難なことではないが,大学で生活をしている者でなければ想像しにくい部分もあるだろうから,一つだけ破綻した大学のその後の状況を伝える記事を紹介しようと思う。

 経営破綻したカレッジ図書館の悲劇(米国)
 カレントアウェアネス: 2008.09.17
 http://current.ndl.go.jp/e830

このように,大学が破綻した後における社会的・文化的影響は極めて深刻なものとなる。単に経済的観点からの損失の問題にとどまらない。

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