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2008年12月 1日 (月曜日)

裁判員の参加する刑事裁判に関する法律101条違反の効果

裁判員候補者として選任された通知を受けた人がインターネット上のブログや電子掲示板等にその事実を記載したことが裁判員の参加する刑事裁判に関する法律101条に違反するのではないかということが話題になっている。

裁判員の参加する刑事裁判に関する法律101条は,次のように定めている。

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第101条(裁判員等を特定するに足りる情報の取扱い)
1 何人も,裁判員,補充裁判員,選任予定裁判員又は裁判員候補者若しくはその予定者の氏名,住所その他の個人を特定するに足りる情報を公にしてはならない。これらであった者の氏名,住所その他の個人を特定するに足りる情報についても,本人がこれを公にすることに同意している場合を除き,同様とする。
2 前項の規定の適用については,区分事件審判に係る職務を行う裁判員又は補充裁判員の職にあった者で第八十四条の規定によりその任務が終了したものは,すべての区分事件審判の後に行われる併合事件の全体についての裁判(以下「併合事件裁判」という。)がされるまでの間は,なお裁判員又は補充裁判員であるものとみなす。

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この条項の解釈は,比較的明らかであると思われる。

まず,101条の制定趣旨(立法趣旨)であるが,101条は,「第六章 裁判員等の保護のための措置」という章の中にある。したがって,101条は,候補者以外の者が候補者の氏名等を公表することにより,候補者に圧力をかけたり,不正行為をするように唆したり,正当な理由なく辞退したり,候補者に危害を加えたりすることを防止しようとする趣旨であることが明らかだ。つまり,101条1項にある「何人」とは,もともと「候補者」自身を含まない趣旨だと理解することができる。

しかし,文言だけから解釈すると,「何人」とは日本国の国家主権が及ぶ者すべてを指すことになるから,候補者自身を含め,日本人及び日本国の領土内に所在するすべての者と解釈せざるを得ない。おそらく,最高裁と法務省はこのような解釈を採用するだろうし,異なる解釈を前提にして何らかの訴訟を提起したとしても,裁判所が異なる解釈を是認する可能性はほとんどない。

以上の認識を前提に,候補者自身が「候補者となった」という事実を公にした場合の法的効果について考えてみた。

まず,直接の罰則はないようだし,候補者の段階で「みなし公務員」とする条項も存在しないようなので,裁判員候補者が自らその事実を公にしたとしても,そのことのみを理由にして処罰されることはない。

次に,裁判員としての選任手続においては,虚偽の陳述をすることが許されないので,自らが裁判員の参加する刑事裁判に関する法律101条に違反する行為をした場合には,そのことを正直に申告しなければならない。そして,そのような申告があった者については,法律を遵守しない者であることが明らかであり,かつ,守秘義務を守らない可能性があることから,その者を裁判員または補充裁判員として選任してはならない。そのような法律上の義務を遵守することができない者または遵守しようとしない者を裁判員または補充裁判員に選任することは,明らかに違法である。

更に,もし候補者が自ら「候補者となったこと」を公にしたことによって,誰かから何らかの侵害行為を受けた場合,そのような場合であっても,その候補者は加害者に対して不法行為に基づく損害賠償請求をすることができる。ただし,そのような結果を招いた原因が,自ら事実を公にしてしまったことにある場合には,自ら招いた侵害行為であることから,少なくとも50パーセント以上の過失相殺をすべきである。事案によっては100パーセントの過失相殺をすべき場合もあるかもしれず,そのような場合には,請求棄却の判決をすべきことになる。

ちなみに,法律上の義務違反行為があるという理由で,国が裁判員候補者に対して損害賠償請求をすることができるかどうかについても一応検討してみた。しかし,そのような場合に,国が裁判員候補者に対して損害賠償請求をすることは,まさに権力の濫用そのものであり,許されるべきことではないと考える。同様に,単に法律上の義務違反行為があったということだけで業務妨害罪に該当すると考えることにも無理がある。もし,そのような理由で業務妨害罪で公訴の提起をするとなれば,まさにその公訴の提起それ自体が権力の濫用であり,これまた許されることではない。もともと正当な理由があれば辞任することができる制度であるので,損害賠償請求または業務妨害罪等に基づく起訴によって威圧・強制することを許容するような制度設計にはなっていないし,候補者であることを法律上の義務として沈黙させて「表現の自由」の一部を奪うことに対する代償として国から一定額の補償金の支払いがなされるような仕組みにもなっていないので,国から候補者に対する損害賠償請求または業務妨害罪等に基づく起訴によって威圧・強制することを許容するように制度設計することは,日本国憲法に違反することだと考える。加えて,事後的に,「江戸のかたきを長崎でうつ」の如く,税制上,警察上,社会保険上その他の国の業務遂行上で,当該候補者に対して不利益な取扱いをすることは決して許されることではない。もしそのような候補者に対して何らかの不利益な取扱いをすべきだと国会が判断する場合には,法律の中で明確に罰則を定め,その限りにおいて,罪刑法定主義に基づいて不利益な取扱いをすべきである。

ざっと検討してみると以上のようになると思われる。これをまとめてみると,次のとおりとなる。

1 裁判員候補者となった者が裁判員または補充裁判員として選任されたいと思うのであれば,あるいは,裁判員としての職務を遂行を国民として誠実に遂行したいと考えるのであれば,決して自らその事実を公にしてはならない。

2 裁判員候補者となっていることが他人に知られることによって何らかの不利益や侵害行為を受けたくないと考えるのであれば,決して自らその事実を公にしてはならない。

3 裁判員候補者となった者についてもし万が一にも何らかの侵害行為が発生した場合には加害者に対して損害賠償請求をしたいと考えるのであれば,自らその事実を公にしてはならない。

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