サイバーパトロール
警察に協力して違法サイトや違法コンテンツなどの存在を通報するサイバーパトロールがある。個人に委嘱がなされるので,サイバーパトロールという組織があるというわけではなく,そのような枠組みの中で警察に協力する民間人が存在すると理解するほうが良いだろう。
このサイバーパトロールからの通報によって,児童ポルノ販売業者が摘発されたようだ。
児童ポルノ法違反:サイバーパトロールモニター、情報受け初の摘発 /岡山
毎日jp: 2008年11月27日
http://mainichi.jp/area/okayama/news/20081127ddlk33040702000c.html
サイバーパトロールという仕組みそれ自体は何年か前から存在していたらしいのだが,平成18年版の犯罪白書の中でその概容がまとめて説明されている。
警察庁:犯罪白書平成18年版
(1)違法・有害情報対策
http://www.npa.go.jp/hakusyo/h18/honbun/hakusho/h18/html/i1210000.html
違法サイトを通報せよ・広がる民間委託のサイバーパトロール
IT+PLUS: 2007年11月28日
http://it.nikkei.co.jp/security/news/index.aspx?n=MMITzt000027112007
悪用犯罪多発…警察庁「サイバーパトロール」民間委託
CNET Japan: 2007/09/05
http://japan.cnet.com/news/sec/story/0,2000056024,20355745,00.htm
ところで,昨今の様々な出来事について考えていると,「どうも日本は江戸時代と少しも違わないのではないか」と思ってしまうことが多くなってしまった。
サイバーパトロールにしても,戦時中における「隣組」や江戸時代における「下っぴき」などが果たした社会的機能と同じような機能をネット上で果たすための仕組みのようなものだと理解することができるかもしれない。
情報技術が進歩し,ITからICTと呼ばれる時代になったとしても,そのような電子技術を用いるのは生身の人間だ。そして,人間は,そんなに早く進化することができない。結局,外に見えている装いはかなり違ったものになったとしても,ハダカの人間それ自体としては何百年も前とそんなに変わらないし,そうであらざるを得ないということなのだろう。
なお,私は,サイバーパトロールについて批判をしているわけではない。社会というものがその社会を構成する集団において最も主要なものとなっている価値基準を守るための組織である以上,ある種の自治的なものとして「自警団」や「民兵」などが形成されるのは当然のなりゆきなのであって,そのこと自体は,洋の東西を問わないことだろうと思う。大事なことは,そのような自治的な組織のように見えるものが,中央政府の権力者の手先としてだけ機能してしまった場合,結局,自治的な部分社会を国の中枢部が統制し制御するための手段として機能してしまうことがあるということだ。明治維新当時,維新政府が国内での反乱を鎮圧する目的でフランスのジョセフ・フーシェのやり方にならって警察組織を構築した際にも同じようなことが起き,それは第二次世界大戦の終了時点まで続いた。国に対して批判的な勢力にとっては,そのこと自体が耐えがたいものとなり,ある意味で,事件や犯罪の増加を招いてしまうことになるかもしれない。
日本では自治体警察が基本となっているし,米国でも州警察が基本となっている。しかし,サイバー犯罪は世界的なレベルでクロスボーダーで発生するものであるので,どうしても中央統制型の警察活動がメインになってしまう傾向がある。そのこと自体は避けることのできないものだろうと思う。しかし,何らかの意味でのサーキットブレーキのような社会的仕組みを予め構築しておかないと,例えばサイバーパトロールのような民間人を活用した警察上または治安維持上の仕組みが(部分的にせよ)肝心なところで破綻するときにはそのような仕組み全体が一斉かつ全面的に破綻してしまうことがある。
あるいは,「プチ権力」を握ってしまった民間人がとてつもなく傲慢で横柄になってしまうことがあることは,これまでの人類の歴史が明確に証明するところだ。法学者は,そのことを知っているので,「謙抑的であれ」と常に叫んでいる。しかし,「プチ権力者」にその声が届くことはない。それは,「プチ権力者」であるがゆえに,「たかが法律家の分際」などに対しては聴く耳など全くもたなくなってしまうからだ。このこともまた過去の歴史が明確に証明しているとおりだ。
ここらへんのところが何らかの社会的仕組みを構築し運用する場合において一番難しい点なのではないかと思う。
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