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2008年11月30日 (日曜日)

墓石のプライバシー

ストリートビューの問題はまだ全然解決できていないだけでなく,更に墓石の問題にまで拡大しているようだ。

 「墓石画像の公開で困った」 ストリートビューに自治体反発
 JCASTニュース: 2008/11/30
 http://www.j-cast.com/2008/11/30031146.html

米国の法律しか知らない人や,個人情報保護法の条文そのものしか知らない人は,「墓石についてはプライバシーなどない」と考えるかもしれない。

しかし,正しく民法(特に不法行為を含む債権法)を勉強し,関連する裁判例やJIS Q 15001について熟知し,正しく個人情報保護法の解釈論を展開できるだけの法律家としてのしっかりとした能力をもっている人であれば,異なる結論を出すだろうと思う。

まず,個人情報保護法が定める「個人情報」とは生存する個人に関する情報であると定義されている。それゆえ,形式的な解釈のみでは,死者の名である墓石に刻まれた名前は生存する個人の情報ではないという意味で「個人情報」ではない。

しかし,生存している遺族(相続人)にとっては,祖先の名は自己の家系に関する情報であるので,墓石に刻まれた故人の名もまた生存する遺族(相続人)に関する情報の一部であるという意味で,個人情報保護法上も「個人情報」となり得る。遺産分割の際には,故人に関する情報がまさに相続人に関する情報の一部として組み込まれてしまう関係になる。そうでなければ相続関係の案件に対処することが全くできない。

このことは,プライバシー侵害や名誉毀損等に関する裁判例でも認められてきたことだ。

しかも,JIS Q 15001で対象としている個人データについては,生存する個人に関する情報という限定がない。

要するに,ある法的問題について,その問題を解決するために1個の法律の条文を暗記しただけでは素人以下の解答しか導き出せないことがある。もちろん,単純な丸暗記だけで正解を導き出せるような非常に単純な問題もあり得るが,そのような単純な問題については,誰でも理解可能であるがゆえに議論となることはない。

法の解釈とは,そんなに簡単なことではないことがあるのだ。そして,「故人の情報」の問題は,そのような意味で「簡単なことではない」問題の一つだと言えるだろうと思う。

この問題について,墓石を撮影された人々が困惑したり怒ったりするのは当然だろうと思う。宗教心が強い人であれば,プライバシーや個人情報といった法律論云々の前に,宗教的尊厳をひどく傷つけられたと感ずるのに違いない。そして,宗教的尊厳に対する侵害行為は,事案のいかんによっては,遺族(相続人)に対する名誉毀損の一種として扱われることがあり得る。

さて,今後,この墓所の問題だけではなく,この問題と似たような様々な問題が更にたくさん出てくるだろうと推測される。

そして,そのような問題が発生する背景には,日本国では,古来,「ハレとケ」の精神的伝統があり,「オモテとウラ」の使い分けという微妙な文化的伝統があることも否定できないだろう。これらの文化的伝統は,現実に生きている国民の間でも無自覚的に存在(伏在)していることが多々ある。しかし,このような文化的伝統は,法解釈をする場合にも結構大きな判断要素として機能し得るものだ。そして,同じようなことは世界各国の法律や法制度等を理解する場合にも当てはまる。要するに,表面的な条文の理解だけでは,法をきちんと理解したことには全くならない。もし,仮にGoogleがその程度の表面的な理解だけで「世界各国の法制度に対応している」と主張しているのだとすれば,それは,誤解または認識不足ということにならざるを得ないだろうと思う。

日本国の政府がこの問題について何も対応しようとしないのは,無能であるか無責任であるのか,そのいずれかだと非難されても仕方のないような状態になってしまっているかもしれない。もし本当に無能であるか無責任であるかのいずれかだとすれば,無能または無責任な公務員に対してどうして税金から巨額の俸給(給料)を支払わなければならないのか全く理解に苦しむべき状態にあるとの非難を受けることにもなるかもしれない。早急に是正措置を講ずるべきだと思う。

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