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2008年11月24日 (月曜日)

電子商取引と消費者契約法

11月22日に明治大学で開催された第33回法とコンピュータ学会の研究会午後の部の講演の中で,最も重要なものだと私が思ったのは,学習院大学の野村教授による電子マネーと関連する消費者保護に関する報告だった。このことは「昨日の学会」という記事の中で既に書いた。

そもそも「電子マネーをどのように定義するか」という大問題が未解決のままであるけれども,この点は一応措くとして,現実に流通しているSuicaのようなプリペイド式の電子カードやポイントカードにおける消費者保護について,クレジットカードにおける消費者保護と比較して検討してみると,雲泥の差があることが分かる。

消費者保護の関係では,その基本法となるべき法令は,「消費者契約法」だ。とりわけ,同法の第8条~第10条が重要だと考える。この点は,野村教授も明確に意見を述べていた点だし,現在作業が進められている民法債権法の改正作業の中でも議論されている非常に重要な部分だ。この民法債権法の改正については「情報ネットワーク法学会第8回研究大会」で講演が予定されている。

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(事業者の損害賠償の責任を免除する条項の無効)
第8条  次に掲げる消費者契約の条項は,無効とする。
一  事業者の債務不履行により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除する条項
二  事業者の債務不履行(当該事業者,その代表者又はその使用する者の故意又は重大な過失によるものに限る。)により消費者に生じた損害を賠償する責任の一部を免除する条項
三  消費者契約における事業者の債務の履行に際してされた当該事業者の不法行為により消費者に生じた損害を賠償する民法 の規定による責任の全部を免除する条項
四  消費者契約における事業者の債務の履行に際してされた当該事業者の不法行為(当該事業者,その代表者又はその使用する者の故意又は重大な過失によるものに限る。)により消費者に生じた損害を賠償する民法 の規定による責任の一部を免除する条項
五  消費者契約が有償契約である場合において,当該消費者契約の目的物に隠れた瑕疵があるとき(当該消費者契約が請負契約である場合には,当該消費者契約の仕事の目的物に瑕疵があるとき。次項において同じ。)に,当該瑕疵により消費者に生じた損害を賠償する事業者の責任の全部を免除する条項
2  前項第五号に掲げる条項については,次に掲げる場合に該当するときは,同項の規定は,適用しない。
一  当該消費者契約において,当該消費者契約の目的物に隠れた瑕疵があるときに,当該事業者が瑕疵のない物をもってこれに代える責任又は当該瑕疵を修補する責任を負うこととされている場合
二  当該消費者と当該事業者の委託を受けた他の事業者との間の契約又は当該事業者と他の事業者との間の当該消費者のためにする契約で,当該消費者契約の締結に先立って又はこれと同時に締結されたものにおいて,当該消費者契約の目的物に隠れた瑕疵があるときに,当該他の事業者が,当該瑕疵により当該消費者に生じた損害を賠償する責任の全部若しくは一部を負い、瑕疵のない物をもってこれに代える責任を負い,又は当該瑕疵を修補する責任を負うこととされている場合

(消費者が支払う損害賠償の額を予定する条項等の無効)
第9条  次の各号に掲げる消費者契約の条項は,当該各号に定める部分について,無効とする。
一  当該消費者契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し,又は違約金を定める条項であって、これらを合算した額が,当該条項において設定された解除の事由,時期等の区分に応じ,当該消費者契約と同種の消費者契約の解除に伴い当該事業者に生ずべき平均的な損害の額を超えるもの 当該超える部分
二  当該消費者契約に基づき支払うべき金銭の全部又は一部を消費者が支払期日(支払回数が2以上である場合には,それぞれの支払期日。以下この号において同じ。)までに支払わない場合における損害賠償の額を予定し,又は違約金を定める条項であって,これらを合算した額が、支払期日の翌日からその支払をする日までの期間について,その日数に応じ,当該支払期日に支払うべき額から当該支払期日に支払うべき額のうち既に支払われた額を控除した額に年14・6パーセントの割合を乗じて計算した額を超えるもの 当該超える部分

(消費者の利益を一方的に害する条項の無効)
第10条  民法 ,商法 (明治32年法律第48号)その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し,消費者の権利を制限し,又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって,民法第1条第2項 に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは,無効とする。

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これらの条項が,現在「電子マネー」として流通しているカード等にそのまま適用されるかどうかについては議論があるかもしれないし,とりわけ第10条の解釈については意見が分かれるかもしれない。

しかし,クレジットカードであれば必要なものとして法令や裁判所の判決等により実現されてきた消費者保護がクレジットカードでなければほぼ全面的に無関係とされてしまうと考えることにはかなり強い疑問を感ずる。

要するに,企業と消費者との間の契約であることには変わらず,しかも,金銭の支払いや決済が必然的に伴う契約であるので,現時点で最も普及しているクレジットカードと同じレベルでの法的保護を検討すべきだと考えるのが正常な感覚というものだろうと思う。

色々とネット上のブログ記事等を読み漁ってみると,勉強不足の評論家等が,「技術の進歩のためには法規制すべきでない」という愚にもつかない意見を開陳している例をいくらでも見つけることができる。あまりにも無責任過ぎる。あるいは,ステルスマーケティングの一種かもしれない。ステルスマーケティングは,日本では「サクラ」として古くから知られている手法で,詐欺行為または不正な取引行為の一種と言って良い。日本では直接に規律する法律はないという誤解が存在するけれども,「サクラ」を当該事業者の共犯者(または同視すべき者)であるとして理解する限り,「不当景品類及び不当表示防止法」や「特定商取引法」等の条項をよく検討してみると,それが誤解であることを理解することができる。ただし,これらの法令だけでは十分ではないという意味ではそのとおりなので,大規模な法改正は必要だろうと思う。

また,関連する法令をきちんと整備しても,ヤバくなればさっさと計画倒産して逃げてしまうといった例があとをたたない。法律上は,倒産しても清算のための法人格が残っていることになっているので,逃げても清算法人だけは残っているはずなのだが,事実上,元の経営者の逃げ得になってしまっている例が多いのだ。

このような問題に対処するためには,やはり,罰則の強化と公訴時効期間の進行の停止を拡大することしかない。

悪いことをして甘い汁をたんまりと吸った者は,その弁償が済むまでは,一生悔やみ通すような思いをさせるのでなければ,被害者だけが苦しみと悲しみを味合わされることになってしまう。

しかし,そのような事態は正義に反する。

いずれにしても,今後,消費者保護法制及び民法の改正作業から目を離すことができないことだけは事実だろうと思う。

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