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2008年11月27日 (木曜日)

CRTCの決定をめぐる議論

Canadian Radio Television Commission (CRTC)は,Canadian Association of Internet Providers (CAIP) からの申立を斥け,Bell Canadaに有利な決定をした。

 CRTC rules in favour of Bell
 Brock Press: 11/25/08
 http://media.www.brockpress.com/media/storage/paper384/news/2008/11/25/Business/Crtc-Rules.In.Favour.Of.Bell-3561599.shtml

この案件は,Bell CanadaがP2Pのトラフィックを制限するために通信内容の探知と制限を始めたことに端を発する。

P2Pについては様々な法的論点が存在するが,日本では,各ISP毎に自分自身のノードを通過するP2Pトラフィックの分量を制限している例はある。これは,企業としてのISPが自己の財産として管理する情報資産を守り,他の通常の利用者の通信が輻輳によって阻害されることを防止するためになされるやむを得ない措置だと一般に考えられている。

問題は,個々のトラフィックがP2Pのデータ送信のためのトラフィックなのかどうかを事前に探知しなければ制限を加えることができない場合があるということにある。

この問題を考える上では,「探知」なるものが現実にはどのような手法によって実施されているのかを具体的に検証する必要があると考えられる。机上の空想だけで議論してみても何の解決にもならない。

一般に,電気通信事業者は,特定のパケットのID情報とヘッダ情報を取得しなければそもそも通信の媒介をすることができない。このことは,郵便事業者が,差出人と宛名の情報を取得するのでなければそもそも郵便事業を遂行することができないのと全く同じことだ。それゆえ,電気通信事業法は,電気通信事業者が通信の媒介のために必要な情報を取得することが当然のことであることを前提に,その通信の取扱いに際して取得した情報につき秘密を守るべき義務を定めており,電気通信事業者に関する限り,この守秘義務こそが「通信の秘密」の根幹部分をなしている。このことは,旧電電公社時代の法制の解釈論としては明々白々のことであったのだが,電気通信事業法に基づいて電気通信事業の民間開放が進むにつれ,どういうわけか微妙に歪んだ法解釈が優勢になってしまって今日に至っている。もちろん,現行法の下においても通信の実質的内容について電気通信事業者が探知することは「通信の秘密」の侵害に該当する。それは,通信事業者は通信の媒介を業務内容とするのであり,その内容の審査を業務内容とするものではないからだ(ただし,プロバイダ責任制限法の制定以降,このことにかなり変化があることは否定できない。しかしながら,今日に至るまで基本的な部分できちんとした一貫性のある法解釈論が確立されておらず,その場しのぎの評論家的な法解釈論しかないような状態になっているため,裁判所の判断の中にはかなり奇妙なものがあることも否定できない。)。

しかしながら,コンピュータウイルスを運搬するパケットやDDoS攻撃のためのパケットなど,パケットそれ自体が明らかに違法性を有する場合には別の考慮が必要となる。正当防衛や緊急避難が成立する場合のみならず,電気通信事業者としての通常の情報セキュリティ業務の一部としてなされる合理性と必要性があり,その手法が相当であり,業務遂行のために必要な範囲に限定してなされるものである場合には,例外的に,通信内容の探知がなされることがある。このことは,時限爆弾の運搬の可能性がある場合に,小包の内容をX線で検査するのと同じことだ。飛行場では,航空機の墜落という重大な危険があり,かつ,テロの危険性が常態的に存在していると理解されているがゆえに,今日でも厳重な検査が実施され続けているが,それによってプライバシー侵害が発生することがあってもより大きな利益を守るためにやむを得ない措置だと考えるべき場合が多いだろうと思う。

さて,以上のような理解を前提にして,今回のCRTCの決定は,カナダの法制に基づくものであるとはいえ,日本国におけるISPの業務等を考える上でも非常に重要なものではないかと思われる。

もちろん,プライバシーの侵害の危険性はある。大事なことは,プライバシーの侵害の可能性があり得ないような合理的で相当な技術的手段を採用して,トラフィックの輻輳やサイバー犯罪などの問題を解決するためのよりよい方法を探究し続けることではないかと思う。

なお,CRTCの決定に関しては,私の友人であるMichael Geist氏のブログに興味深い連載記事がある。

 Michael Geist's Blog
 http://www.michaelgeist.ca/

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